|
数多くのヒット曲を手がけてきた作詞家の松本隆さん(65)が、作詞活動45周年を迎え、新たな試みに乗り出した。かつてアイドルらの歌唱で親しまれた詞を、一編の詩として、いま見つめ直す。
5年前、40周年の節目を豪華な顔ぶれのトリビュート盤や記念コンサートで祝った。次は50周年かと漠然と考えていたが、この間の大きな変化が45周年企画を後押しした。
東日本大震災の後、一極集中への疑問が募り、生まれ育った東京を離れて住まいを神戸に、仕事場を「詩の神様がいっぱいいる」京都に移した。活動を側面から支えた編集者の川勝正幸を2012年に、作曲家として信頼を寄せた大瀧詠一を13年に失った。
「いちばん近い人間がいなくなると焦るよね。命には限界がある、やりたいことは今すぐやらなきゃ、って」
45周年企画として、24日にトリビュートアルバム「風街でうたう」を出す。スピッツの草野マサムネや斉藤和義らが松本作品をカバーしているが、初回限定盤のボーナスディスク「風街でよむ」が新しい試み。16人の俳優、歌手が松本作品を一つずつ選び朗読しているのだ。「曲をとっぱらって、それでも歌詞は詩として成立するのか。そんな根源的な問いかけです」
例えば斉藤由貴は「卒業」を、薬師丸ひろ子は「あなたを・もっと・知りたくて」の歌詞を朗読している。小泉今日子は松田聖子「哀(かな)しみのボート」を読む。少女時代の面影と、経験を重ねた俳優の姿が二重写しになり、出会いや別れの風景に全く違う風が吹く。松本さん自身もはっぴいえんどの「風をあつめて」を横浜の大さん橋で読んだ。
80年代のアイドル黄金時代。「レコード会社や芸能事務所からのオーダーは『1位をとってくれればいい』。そこさえクリアすれば、詞に深みや文学性など余計なものを仕込んでも文句は言われなかった」
すぐれた歌詞は二重、三重、あるいはそれ以上の意味を含んでいるという。「聴いた人が大人になり、ものづくりに携わるようになると、さらに別の次元で意味が見えてくる。そこで生まれる評価が、売り上げ記録を超えた本当の評価だと思う」と松本さんは言う。
「100人読めば、100通りのドラマが生まれるはず。詩が大衆から遊離した今、新しい娯楽として歌詞の朗読を提案したい」
ヒット狙いの仕事はもう卒業した。シューベルトの歌曲や古事記を引き続き現代語詩にし、いずれは平家物語にも取り組みたいという。だが、古典の世界に隠遁(いんとん)したいわけではない。「いい作曲家を紹介してくれませんか。いくらでも詞を書くから」(藤崎昭子)



